会計事務所のM&Aに関する税務②

会計事務所M&Aに関する税務処理

(1)会計事務所(個人)の場合

事務所の建物は賃借、机やパソコンは一括資産や少額資産、高額なコピー機はリースという事務所が多いです。会計事務所の資産は事業会社に比べると少ないのであまり論点にはなりません。

会計事務所運営に必要なものは顧問先と従業員です。では会計事務所の顧問先や従業員を引き継ぐ対価は営業権の譲渡(前ページの⑤に該当)、つまり譲渡所得(総合課税)となるでしょうか。結論は譲渡所得ではなく「雑所得」となります。なぜか?それは過去に国税庁が以下のような見解を出しているからです。

昭和42年7月27日

広島国税局長 殿

国税庁長官

「税務および経理に関する業務」の譲渡に伴う所得の種類の判定について(昭和42.2.10付広局直所第89号・広局直資第77号上申に対する指示)

税理士がその業務を廃止するに当たり、従来、関与していた得意先を他の税理士等に引き継いだ場合において、その引継ぎを受けた税理士等から受ける金銭等にかかる所得は、雑所得として取り扱うこととされたい

(理由)

税理士が、その業務を他の税理士等に引き継いだ対価として受ける金銭等は、得意先のあっせんの対価と認められる。

広局直所89

広局直資77

上記の昭和42年に国税庁が通知した見解では、税理士事務所の顧客を他の税理士等に引き継いだ際の対価は、得意先のあっせんの対価ということで「雑所得」であるとしています。

また、平成22年には上記の国税庁の見解と同じく税理士事務所を他の税理士に承継した際の対価は雑所得であるという下記の裁決が出ています。

【請求人が営んでいた税理士事務所を他の税理士に承継するに際して受領した金員に係る所得は、譲渡所得には該当しないとした事例】

(平成22年6月30日裁決)

①税理士と顧問先との関係において、税理士のノウハウや顧問先との信頼関係は、当該税理士個人に帰属し、一身専属性の高いものであり、税理士とその顧問先が両者の委任契約の上に成り立っていることからすれば、当該税理士を離れて営業組織に客観的に結実することにはなじまないこと、

②補助税理士及び従業員と顧問先との関係において、請求人の補助税理士は、請求人から事業を承継する税理士Aのみであり、かつ、事業承継時においてAに引き継がれた従業員はいなかったのであるから、当該事業承継では補助税理士及び従業員と顧問先との関係は生じないこと、

③税理士事務所独自のノウハウ、これと税理士や従業員等が一体となって行われる運営、その他、超過収益を稼得できる無形の財産的価値を有していた旨の請求人の主張については、請求人から具体的な主張や証拠の提出はなく、また、請求人が経営していた税理士事務所に超過収益を稼得できる無形の財産的価値があったと客観的に認めることができないことから、請求人が経営する税理士事務所において、譲渡所得の基因となる資産としての営業権若しくはこれに類する権利が存在していたことを認識することはできない。

上記の裁決は、請求人が以下のように主張したことに対するものです。

「請求人は、税理士事務所においては、税理士、従業員(補助)税理士、従業員及び顧問先と税理士事務所独自のノウハウ等が一体となって税理士事務所の運営がなされていることに着目して営業権あるいは企業権というものを認識することができ、請求人はこの営業権という資産を譲渡したものであるから、その対価として受領した金員に係る所得は、所得税法第33条に規定する譲渡所得に該当する旨主張する。」

この裁決では税理士事務所の顧客は「一身専属性の高いもの」とされていて、営業権の存在を否定しています。

上記の2つの見解から、会計事務所を譲渡した際の対価は「雑所得」として処理することになります。しかし現実的には「〇〇先生が引退するなら顧問契約を解除する」と言ってくる顧問先は殆どありません。税理士が引退しても職員が残れば顧問先もそのまま残るケースのほうが多いです。会計事務所の重要な資産たる顧問先が税理士個人に帰属しているとは言い難く、つまり一身専属性は高いとは言えないので、これは営業権の譲渡に該当し、譲渡所得が妥当と思います。

、、、とストライクにいた頃は散々主張していたのですが、現在税理士業界に身を置いているので、そのような主張はいたしません。会計事務所のM&Aに関する所得は「雑所得」です。。。

(2)会計事務所(法人)の場合

前ページで説明した通り、事業譲渡の対価は譲渡益として計上され、法人税等の対象になります。