クリニック開業ガイド

クリニック開業ガイド

初めに

クリニックの開業をするということは、個人事業主として、若しくは医療法人の理事長として事業体を造り上げ、それを運営していくことです。
その開業のためには場所の選定、設備投資、集客、スタッフの採用と教育などを行わなければなりませんが、その多くが最終的には借入や将来の利益などの財務数値に関連してきます。
クリニックの開業と運営においては、医師の治療行為が最も重要ですが、経営の成否を決める要素はそれ以外の事項がその殆どを占めることになるのです。そして設備投資や借入など、重要な財務項目は、開業の時点でその多くが決まります。
開業後に「こんなはずではなかった。」ということにならないように、開業時にすべきことを、単なる手続きとしてではなく、経営者としての経営活動の重要な一部として捉えて、その検討を開始して下さい。

公認会計士 / 税理士の選定

開業した場合、財務数値の把握を継続的に行っていく必要があります。開業してただ単に売上が分かればいいということではなく、最低限1年の儲けとしての利益を算定し、これに対して税金を納めなければなりません。
ところで会計の目的は利益を計算して、税金の計算をするだけなのでしょうか。そうではありません。その他にも次のような目的・機能があります。

利益を出した(出せなかった)理由を検証する

⇒それによって、利益を伸ばすためにするべきことを割り出す

銀行やその他の関係者に業績を伝える

⇒それによって、資金を出してもらうなどの協力を引き出す

将来の資金についての予測を行う

⇒それによって、資金調達などを早めに実施する

こういった相談に乗ってもらえる会計士・税理士を選ぶことが重要です。単なる節税だけのテクニックも重要ですが、それだけでは結果としての税金の出費を抑えることにしかなりませんし、節税には限界があります。それよりも、将来を見据えて適切な経営アドバイスをしてくれる会計士・税理士を選ぶことが大切になってきます。

開業の流れ

さて、開業のためにすべきことは多くありますが、概ね以下のような流れで準備をすることになります。

この流れは必ずしも上記の順番ではなく、同時並行に行われるものもあります。そのうち、場所の選定、設備の準備、スタッフの採用と教育などは、それまで勤務医だったころから馴染みが深いかもしれません。しかし、事業計画の作成、資金調達となると新たな領域になってくるのではないでしょうか。この新たな領域については会計士・税理士の協力が特に必要になると思いますので、その点を後述します。
また、内装や設備投資についても、実は発注者として発注することは初めての経験になります。クリニックの開業に限らず、ベンチャー企業でも開業後の設備投資で相場が分からずに高額な発注をしてしまい、その後の経営に苦しむケースは多々あります。
複数社の見積りの比較、見積りの詳細な検討による総コストの引き下げ、業者への値引きの依頼は事業者としては当然の作業になります。この点も面倒くさがらずにコツコツとやることが、その後の経営に影響しますので、しっかりと時間をかけなければなりません。

事業計画の作成

事業計画の作成と聞いて、毎月の患者数と診療報酬の計画ならできると思われる先生がいらっしゃると思います。また、それから一歩先に行って、人員計画と経費の見込を入れて、また借入の返済を考えて資金計画まで作るんだという先生もいらっしゃるでしょうか。ここまでくるとだいぶ上級者ですが、本来はそれ以上に検討しなければ本当の事業計画にはなりません。
事業計画の構成は次のような構成になっています。

人員計画から人件費が割り出せますが、これには社会保険料などの法定福利費が含まれていたり、勤務医への歩合給の他に、スタッフへの賞与の方針も含まれます。また納税見込を行うためには、設備投資の減価償却や、開業費の償却なども考慮する必要があります。資金計画のための資本計画は個人事業主には必要ないかもしれませんが、金融機関以外からの資金調達を考えているのであれば、これも含まれます。
実際、これだけの計画をしっかりと立てないで開業に踏み切ることもできますが、開業後にお金回りで「あれっ?」と見込み違いがあると余計な心配が増えます。また資金ショートは破産につながる一歩ですので、きっちりと見極めてから開業したいところではないでしょうか。

資金調達

上記の事業計画が作れた上で、開業のための資金調達を実施することになります。
最も重要なことは資金調達額を決定することです。先ほどの事業計画によって今後どのていど返済できるのかが分かりますが、その前に開業資金としていくら必要なのかを検討しなければなりません。

  • 内装工事資金
  • 不動産購入資金(賃貸の場合は保証金)
  • 機械設備購入資金
  • 運転資金

自分の生活費や、開業に際しての広告費、不動産の購入がある場合には不動産取得税など運転資金の範囲も広いので、ここで見落としがないようにすることが重要です。
金融機関からの資金調達では、事業計画の他、担保の有無、借入先の違いによって借入額や金利が行ってきますが、医療機関であれば各金融機関でそのための融資商品がありますので、それぞれ借入可能で有利な金融機関を選ぶことが重要です。

(独)福祉医療機構
  • 上限が建築で5億円
    土地取得で3億円
  • 長期間・低利の融資が受けられる
  • 開業資金については不足地域に限定
  • 病院に対する一部貸付けは廃止
日本政策金融公庫
  • 新規開業ローン
  • 上限7,200万円
  • 2年以上の勤務実績が必要
  • 事業開始後も可能
  • デジタルX線装置、レセコンなどの取得のための優遇金利
東京商工会議所
  • 創業支援融資保証制度により融資斡旋
  • 無担保で上限2,500万円
  • 自己資金の範囲内
  • 創業計画の審査と認定、又は創業ゼミナールの終了
銀行ローン
  • りそなドクターアシスト 5,000万円
  • 三井住友開業医ローン 5,000万円
  • 東京都民銀行 開業医サポートローン 2,500万円~1億円
  • など

担保や保証の有無、借入期間や限度額が個別のローンごとに違いますので、その実情に応じて自分にあったローンをできるだけ有利な条件で選んで資金調達をします。

開業後の運営

資金調達ができたら、スタッフの教育や広告宣伝を行っていよいよ開業です。
個人事業主としてするべきことはこれからが大変です。診療報酬の保険請求、患者負担分の入金管理、各支払のチェック、在庫管理、給与の計算、人事評価、資金繰り。そう考えると治療に専念している暇はないように感じられます。
実際には治療に専念してもよいのですが、経営者が注力しないところには問題が起きやすくなります。
クリニック全体としてうまく機能させるためには、やるべきことを自分でやるほか、業務として流れを作り、それをうまく動かすことが必要です。
その結果として、自分が治療と増患に専念できる環境ができるのです。そのためには必要に応じて適切な専門家を利用することになります。

決算と申告

個人事業主であれば12月、医療法人であれば設立時に決めた月に1年が終わり決算をします。決算書では大きく利益が出たのにお金が残っていない。なんてことは世の中の多くの経営者が思っていることです。
一生懸命クリニックを経営し、売上から経費を引いた後に借入の返済と税金を支払うことになります。決算上は何とか利益を出さないようにしたいという経営者は多いのですが、利益が出て税金を支払わなければ借入の返済はできません。つまり節税がうまくいったと思った矢先に借入が返せなくなってしまうことがあります。経営がうまくいっているクリニックは、しっかり税金を支払って、借入も返済しているクリニックです。
毎年の決算内容については、会計士・税理士と十分に見て、分析し、来年にするべきことの参考にしていくようにして下さい。

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