会計事務所のM&A①

会計事務所の実態

税理士登録している人数は8万人ほどで、会計事務所数(税理士法人含む)は2.6万ほどです。単純に計算すると1事務所に税理士は3人ほどとなりますが、いわゆるBIG4や辻・本郷税理士法人のような大手の税理士法人に多くの税理士が所属しているので、多くの会計事務所は1事務所につき税理士1~2人で運営されています。

一方、税理士の平均年齢は60歳以上です。60歳といえば一般事業会社で60歳の社員は退職するか再雇用でしばらく働くかを選択する年齢ですが、税理士業界ではまだまだ若いです。「税理士は60歳になって一人前。40歳、50歳はまだヒヨッコ」とおっしゃる税理士もいます。

ただ、60歳を超えると体力も衰えるし頭の回転も少しずつ鈍ってくるし、いい加減働くのを止めて余生をのんびり過ごしたい(または、とにかく遊びたい!)、、、と考える人もいらっしゃいます。

後継者不在で悩む会計事務所

後継者がいないために事業承継で悩む中小企業が増えております(この話はいずれ)が、同じことが税理士業界で起きています。高齢の税理士1人と数名の職員で構成する会計事務所は、高齢の税理士が仕事を辞めたいと思ってもすぐに辞められません。事務所内に税理士がいないので引き継げる人もいないし、後継者がいないので廃業する場合は職員をクビにしなくてはならないし、、、と悩んでいるケースはとても多いです。私がストライクにいた頃、何人もの税理士から「うちの事務所を引き受けてくれるところ無いかな?」と聞かれましたし、実際に会計事務所のM&Aを何件も成約させました。

事業承継型M&Aと成長戦略型M&A

事業会社では、後継者不在の中小企業の事業承継問題を解決する手段としてM&Aを選択する経営者が増えています。後継者がいないので第三者に会社を譲渡するケースです。このようなM&Aは「事業承継型M&A」と呼ばれており、中小企業のM&Aの半分以上が事業承継型M&Aです。

一方、後継者の有無は関係なくM&Aを選択する中小企業も増えています。別の事業に進出したいので今の会社を譲渡しその資金を別事業に投資するというケースや、自力での成長ではなく大手の傘下に自ら入り大手の支援を受けて自らの会社を成長させるというケースがあります。このようなM&Aは「成長戦略型M&A」と呼ばれていて、比較的若い経営者が選択することが多いです。

会計事務所が譲渡を決断する理由

①引退したいが後継者がいない

・子供がいない

・子供はいるが試験に合格できない

・子供はいるが他の業界で働いていて継ぐ気がない

・後継者と考えていた職員がいつまで経っても試験に合格しない

・事務所にいる税理士は経営者としては頼りない

これは先ほど説明した事業会社のM&Aのうち「事業承継型M&A」に該当します。中小企業も会計事務所も同じような理由で後継者問題を抱えています。しかも会計事務所特有の問題として「税理士や公認会計士の資格が必要」ということが挙げられます。どんなに優秀な人であっても、資格を持っていないと承継できないということです。これは医療法人にも当てはまりますが、後継者の幅が事業会社以上に狭いためより後継者問題で悩む人が多いです。

会計事務所が譲渡を決断する理由

②先行き不安

・毎年顧問報酬の値下げを要求される

・顧問先が年々減少する

・職員を新規採用できない

・複雑化する会計税務(連結、国際税務などなど)に対応できない

・事務所のDX(デジタルトランスフォーメーション)化に対応する知識経験、資金もない

・税理士業界全体の将来が心配

会計事務所の代表である税理士は事務所の規模の大小は違えど立派な経営者なので、中小企業の経営者同様に経営に関する様々な悩みを抱えています。事務所運営に不安を抱えている方もいらっしゃるでしょうし、業界全体の先行きに不安を抱えている方もいらっしゃるでしょう。先行き不安であるため、あえて大手の傘下に入りたいと考える方もいらっしゃいます。

会計事務所が譲渡を決断する理由

③他業種への転換

公認会計士や税理士の中には会計事務所の他にコンサル会社などの別会社を運営している方がいらっしゃいます。他にも不動産仲介の会社や保険代理店、中には投資ファンドを運営している方もいらっしゃいます。会計事務所以外の事業が順調でそちらに専念したいために会計事務所を手放したいと考える方がいらっしゃいます。

②と③は先ほど説明した事業会社のM&Aのうち「成長戦略型M&A」に該当します。事業会社のM&Aが増えているのと同様に、様々な理由から会計事務所のM&Aも増えていますし、今後さらに加速していきます。