会計事務所のM&Aに関する税務①

会計事務所M&Aは「事業譲渡」で行われます。税理士法人の持分を譲渡するということも考えられますが、税理士法人の持分は税理士個人が取得するしかない(税理士法人が他の税理士法人の持分を取得することはできない)のと、税理士は2つ以上の税理士法人の社員になることはできないという制限があるため、税理士法人の持分の売買はハードルが高いです。

事業譲渡に関する税務処理

ではまず事業譲渡に関する税務処理について触れたいと思います。

※このページの内容は会計事務所のM&A限定ではなく一般的な話なので、税務に詳しい人には退屈なページかもしれませんがご容赦ください

(1)個人事業主が事業譲渡する場合

譲渡する資産の種類によって所得の区分が異なります。

①土地建物を譲渡した場合の所得は、譲渡所得(分離課税)となります。なお、土地や建物を譲渡したときの譲渡所得は、次のとおり所有期間によって長期譲渡所得と短期譲渡所得の二つに区分し、税金の計算も別々に行います。

【長期譲渡所得】:譲渡した年の1月1日において所有期間が5年を超えるものをいいます。

【短期譲渡所得】:譲渡した年の1月1日において所有期間が5年以下のものをいいます。

(参考)分離課税の譲渡所得の計算方法

・短期譲渡所得=譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除

 税額=短期譲渡所得金額×30.63%※(+住民税9%)

 ※通常は30%ですが、平成25年~令和19年まで特別復興税率(所得税額×2.1%)が課されます。

・長期譲渡所得=譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除

 税額=長期譲渡所得金額×15.315%※(+住民税5%)

 ※通常は15%ですが、平成25年~令和19年まで特別復興税率(所得税額×2.1%)が課されます。

②事業所得者が商品、製品、半製品、仕掛品、原材料などの棚卸資産を譲渡した場合の所得は、事業所得となります。

③使用可能期間が1年未満の減価償却資産、取得価額が10万円未満である減価償却資産(業務の性質上基本的に重要なものを除きます)、取得価額が20万円未満である減価償却資産で、取得の時に「一括償却資産の必要経費算入」の規定の適用を受けたもの(業務の性質上基本的に重要なものを除きます)を譲渡した場合の所得は、事業所得又は雑所得となります。

④その他の資産を譲渡した場合の所得は、譲渡所得(総合課税)となります。

⑤営業権を譲渡した場合の所得は、譲渡所得(総合課税)となります。事業譲渡の対価が資産総額(負債も承継する場合は資産総額と負債総額の差額)を超えた金額は営業権となりますが、この営業権の譲渡は譲渡所得(総合課税)となります。

(参考)総合課税の譲渡所得の計算方法

総合課税の譲渡所得の金額は次のように計算します。短期譲渡所得の金額は全額が総合課税の対象になりますが、長期譲渡所得の金額はその1/2が総合課税の対象になります。

 譲渡所得=譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除(50万円)※

※譲渡所得の特別控除の額はその年の長期の譲渡益と短期の譲渡益の合計額に対して50万円です。その年に短期と長期の譲渡益があるときは、先に短期の譲渡益から特別控除の50万円を差し引きます。

(2)法人が事業譲渡する場合

事業譲渡ですので法人が所有する資産が譲渡され、事業譲渡対価がその資産総額を上回った場合は譲渡益として計上され、法人税等の課税の対象となります。